引越し大手のサカイ引越センターが、インドネシアで外国人ドライバーを来日前から育成し、日本で採用する新しい取り組みを始めると発表しました。
サカイはインドネシアの送り出し機関などと協力覚書を締結し、2026年6月ごろに現地で「サカイアカデミー」を開講、毎年60人程度の採用を目指し、5年後には300人規模の特定技能ドライバー体制を構築する計画です。
すでに従来スキームで2025年9月以降に41人が入国・就業しているとも説明しています。
一方で、SNSでは反対や不安の声がかなり目立ちました。
特に多かったのは「まず日本人の賃金を上げるべきではないか」「大切な家財を任せる仕事で、言葉や文化の違いは不安」「安全面は本当に大丈夫なのか」といった意見です。
X上では、外国人ドライバー受け入れへの強い反発や、利用をためらう声、ボイコットを呼びかける声まで見られました。
サカイは何を始めるのか
今回の発表のポイントは、単に「外国人を採る」という話ではなく、来日前教育をかなり前倒しで行う点です。
サカイはインドネシア西ジャワ州ブカシ県に教育拠点を設け、日本語教育に加えて、日本の交通ルール、安全運転、引越し作業の技能、接遇までを一体で教えるとしています。
日本で実際にドライバーとして働くには、社内運転試験の通過も条件です。
引越業界で、外国人ドライバーを来日前から日本基準で育成するモデルは初の取り組みだとされています。
サカイ側の狙いはかなり明確で、人手不足への対応です。
毎日放送系の報道でも、物流業界では2024年問題などを背景に人材不足が課題になっていると説明されており、サカイの担当者も、業界全体の人手不足の解決策につながる取り組みにしたいと話しています。
なぜ反対の声が多いのか
反対意見が多い理由は、大きく3つあります。
- 安全面への不安です。
日本の道路事情は独特で、住宅街の狭い道、時間指定の多い配送、細かい交通マナーなど、単に運転免許があるだけでは対応しにくい部分があります。
報道でも、外国人ドライバーの受け入れについては交通事情の違いなどから安全教育への懸念が出ていると紹介されています。
引越しは大型家具を運ぶうえに、一般家庭の前での停車や積み下ろしも多く、通常の物流以上に気を使う仕事です。 - 言葉と接客への不安です。
引越しは「荷物を運べば終わり」ではありません。依頼主との確認、家具や家電の扱い方の説明、傷や破損があった場合の対応など、日本語での細かいやり取りが必要です。
サカイもそこを理解しているからこそ、日本語教育と接遇教育を来日前から行う計画にしているのでしょう。
逆に言えば、それだけ難しい仕事だということでもあります。 - 雇用と賃金への不満です。SNSで特に強かったのがこの論点で、「安い労働力を海外から入れる前に、日本人ドライバーの待遇を改善すべきだ」という声でした。
これは感情論だけではなく、国土交通省自身がトラックドライバーについて「労働時間が長く、低賃金にあることから、担い手不足が喫緊の課題」と説明している点とも重なります。
メリットは何か
今回の取り組みにも、もちろんメリットはあります。
- まず一番大きいのは、人手不足の緩和です。
引越し業界も物流業界も、2024年問題以降は労働時間規制の影響を強く受けています。
実際、日本トラック協会も2024年4月から時間外労働の上限規制が適用され、輸送能力不足が懸念されると説明しています。
人手が足りなければ、繁忙期に「引越ししたくてもできない」引越し難民の増加にもつながります。
外国人材の活用は、現実的な対策のひとつではあります。 - 次に、来日前教育を徹底するなら、現場での立ち上がりが早くなる可能性があります。
入国してから一から覚えるよりも、日本語や交通ルール、接客を現地で学んでから来る方が、企業側にとっても本人にとっても効率は良いはずです。
サカイが「日本基準」で育成すると強調しているのも、そのためでしょう。 - さらに、中長期的には、日本の物流・引越し業界が外国人材と共に働くノウハウを蓄積できる点もあります。
国土交通省は、2024年から自動車運送業分野で特定技能外国人の受け入れ制度を進めています。
制度がある以上、企業は「どう受け入れるか」を真剣に設計しなければなりません。
デメリットとリスクは何か
ただし、デメリットもかなりはっきりしています。
- 最大のリスクは、「人手不足対策」が「低賃金の固定化」に使われてしまうことです。
企業にとって外国人採用が本当に教育投資と戦力化のためならまだ理解できますが、もし結果的に「日本人を採るより安く抑えられる」という発想で広がれば、業界全体の賃上げ圧力が弱くなります。
すると、日本人がますます集まらず、人手不足を外国人で埋める流れが固定化しやすくなります。
これは引越し業界だけでなく、日本の労働市場全体にとってもあまり良い方向とは言えません。 - もうひとつは、現場負担の増加です。来日前教育をしても、実際に日本で働くと、言葉、生活、文化、接客の感覚などで細かいズレは必ず出ます。
そのとき、現場の日本人社員がフォロー役に回り続けるなら、短期的にはむしろ負担が増える可能性があります。うまく回るかどうかは、採用人数の多さよりも、受け入れ現場の教育体制にかかっています。 - さらに、引越し業という仕事の特殊性も見逃せません。
宅配や一般物流より、引越しは顧客の私生活の空間に深く入ります。
家財は高額で、思い出の品も多く、単なる運送ではなく「信頼」を売る仕事です。
この不安を「差別だ」と切り捨てるのも違いますし、逆に「外国人だから危ない」と決めつけるのも違います。
ミヤカツ重要なのは、企業がその不安に足るだけの教育・試験・現場ルールを示せるかどうかです。
「外国人採用」より先に、日本人の賃金を上げるべきではないか
私は、この問題の本質はここにあると思います。
外国人採用そのものを全面否定するつもりはありません。
制度として認められている以上、真面目に教育し、法令を守り、適切な待遇で受け入れるなら、それは現実的な選択肢のひとつです。
ただ、それを人手不足対策の中心にしてしまう前に、日本人が「この仕事なら続けたい」と思える賃金と労働条件を整える方が先ではないか、という違和感は強くあります。
国土交通省も、ドライバー不足の背景として長時間労働と低賃金を挙げています。
つまり、問題は「日本人がいない」ではなく、「今の条件では集まりにくい」面が大きいのです。
ならば本筋は、運賃の適正化、現場の負担軽減、賃上げ、休日の確保、荷主との力関係の見直しでしょう。
そこを後回しにして、海外から人を補充する方向ばかり強めると、根本問題は残ったままです。
まとめ
引越しのサカイが始めるインドネシア人ドライバー育成・採用は、人手不足に対する現実的な一手であることは間違いありません。
来日前から日本語、交通ルール、引越し技能、接遇を教える仕組みをつくる点も、ただ採るだけよりはずっと誠実です。
ただ、SNSで反対や不安の声が多く出たのも自然な反応です。
安全面、言葉の壁、接客品質、そして何より「安い労働力で埋める前に、日本人の賃金を上げるべきだ」という不満は、かなり本質を突いています。
外国人材の受け入れを進めること自体には一定の意味があります。
しかし、本当に必要なのは、それを“賃上げの代わり”にしないことです。
まずは日本人が働き続けやすい業界にする。
そのうえで、外国人材とも対等に働ける環境を整える。その順番で進めないと、結局は人手不足も不信感も解消されないままだと思います。









